皆さんお元気ですか。オーナーです!! ハッとする様なニュースが出てきたら、 ブログに載せたくもなってしまいます。 それでは、トピックに入りましょう。

 「映画のおかげで修復作業も進んだし、たくさんの人が訪れるようになった。作品自体にも非常に満足しています」。アイルランド国立博物館のキュレーター(研究員)、ジェニファー・ゴフさん(42)は、来日インタビューに笑顔で語った。映画とは、10月14日公開のベルギー・アイルランド合作「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」(メアリー・マクガキアン監督)のこと。主人公でアイルランド出身の女性建築家、アイリーン・グレイ(1878~1976年)が手がけた「E.1027」という貴重な家が、撮影に使われている。

■才能に嫉妬したル・コルビュジエ

 映画は、E.1027をめぐるグレイと近代建築の巨匠、ル・コルビュジエ(1887~1965年)との複雑な関係を軸に展開する。地中海に面した南仏のリゾート地、カップ・マルタンにたたずむこの建物は、1920年代にグレイが、恋人の建築評論家、ジャン・バドヴィッチと暮らす別荘として設計した。ル・コルビュジエが提唱する「近代建築の5原則」を具現化しており、当初はル・コルビュジエも絶賛していたが、やがてその感情は嫉妬へと変わる。グレイの許可なく内壁にフレスコ画を描いたことから、2人の間は修復不可能となってしまう。

 そんな実話を基に、北アイルランド出身のマクガキアン監督は、流れるような語り口と芸術性あふれる映像美で織り上げる。グレイ研究の第一人者でもあるゴフさんがマクガキアン監督の訪問を受けたのは、監督が脚本に着手する1年ほど前のことだった。

 「これまでグレイを描いたドキュメンタリー作品はあったが、フィクションの長編映画は初めてで、監督にはグレイに関係する人や文献を紹介しました。ご自分でもグレイの手紙をひもといたりしてかなり調べたようです。脚本はできあがった時点で送ってくれたのですが、とてもよくグレイのことが描かれていると感じました。撮影中は、私は多忙だったために現場には行けなかったのですが、映像の断片を見せてもらったていました」と、アドバイザーという形で映画に携わったゴフさんは言う。

■オリジナルのタイルに復元も

 中でも真骨頂は、E.1027や、1934年にグレイが自分のために建てた「テンペ・ア・パイア」といった実際の建物でロケーションを行ったことだ。ゴフさんによると、テンペ・ア・パイアは現在は中に入れなくなっており、映画で建物を見せることができたのは幸運だったという。

 「E.1027も、映画に撮られたことで寄付が集まっている。それにたくさんの観光客が訪れるようになり、彼らが払ってくれるお金で傷んだ個所を修復することもできる。建物を管理している館長も喜んでいますよ」とゴフさん。

 日本ではよく、映画などの撮影が入ると機材などで床や壁に傷がつくと敬遠される向きがある。そういう心配はなかったのか。

 「スタッフは撮影の前に何千枚もの写真を撮って、終わった後は完全な形に戻してくれた。それに美術の監修をしていたのが、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011年、ウディ・アレン監督)で米アカデミー賞にノミネートされたアン・シーベルという人で、信頼していました」と笑う。

 逆に映画に使われたことで予期せぬ恩恵もあった。庭のタイルは撮影前、建てられた当時とは違うものになっていたが、映画で撮影するためにオリジナルのタイルに戻されたという。

 「オリジナルのタイルは別の場所に保管されていたが、映画に撮るということで予算が出て、元の場所に戻すことができた。今年の6月に訪れたら、ちゃんと元のタイルに戻ったままでした」とうれしそうに語る。

■競争しながらも尊敬し合う関係

 戦後、E.1027は荒れ果てるが、買い戻そうと奔走したのは、グレイと仲違いしたル・コルビュジエだった。映画でもその微妙な心情が描かれるが、ゴフさんは「2人は競争しながら、お互いに尊敬し合っていたと思う」と解説する。

 グレイは建築家だけでなくインテリアデザイナーとしても知られ、家具も家も住む人に合わせて作るということを信条にしていた。ゴフさんによると、ル・コルビュジエが母親のために建てたスイスにある「レマン湖の小さな家」は、まさにそのグレイの哲学を実践したものだという。

 「助言者という言葉が合っているかどうかはわからないが、ル・コルビュジエは『レマン湖の小さな家』や『サヴォア邸』といった自分の作品の設計図をグレイに渡していて、彼女は時折それを見ては建築の構想を練っていた。グレイは98歳でこの世を去りますが、彼女のめいによると、ル・コルビュジエの仕事は晩年まで気にしていて、『マルセイユのユニテ・ダビタシオン』は好きだけど、『ロンシャン礼拝堂』は好きになれない、などと言っていたようですね」

 グレイのことが「強迫観念的に好きだ」というゴフさんは「グレイはアイルランドの女性だが、その芸術性は国境を越える。この映画では、特にE.1027に込めた彼女の本質が非常によく描かれていると思うし、映画をきっかけに多くの人にグレイのことを知ってもらえたらと思います」と期待していた。(文化部 藤井克郎)

 ■ル・コルビュジエ スイス生まれの建築家。近代建築の三大巨匠の1人と呼ばれる。本名はシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ=グリ。「近代建築の五原則」を提唱。(1)ピロティ(2)屋上庭園(3)自由な平面(4)水平連続窓(5)自由な立面からなり、「サヴォア邸」(1931年竣工)が典型例とされる。

 ■アイリーン・グレイ アイルランドの生まれ。仏に別荘「E.1027」を建築。自身の代表作となる。1950年代に視力の悪化により引退。

 「ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ」は、10月14日に東京・渋谷のBunkamuraル・シネマ、大阪・テアトル梅田、名古屋・センチュリーシネマ、21日に千葉劇場など、全国順次公開。